ブレない「私」で進み続ける
森と人をつなぐこと。地域の子どもを育てること。
work ethic #004
Laut. 代表
八木 さゆり
Yagi Sayuri
彼女の特徴は迷いなく突き進む行動力。
事業は多様なのに共通する芯の強さ。
八木さゆりさんのもつ人間力はコミュニティとして地域を見るとき、重要な鍵となっています。
「子どもを育てる地域」を念頭に取り組む、子ども食堂や農業体験
八木さんといえば、子ども食堂「だれでもごはん」の主催者として、顔を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。その他にも地域の有志による小学校のクラブ活動「報徳いもこじ農楽塾やさいクラブ」にも参加していますね。子育て世代としてのこうした取り組みは、どんな想いからなのでしょうか。
私自身がやってみたいと思うことを実践している部分もありますが、子どもたちには多彩な経験をしてほしいという想いが1番強いです。


代表を務めるこども食堂「だれでもごはん」も子どもの貧困や個食の課題解決の面もありますが、何よりもみんなが同じ場で時間を過ごす暖かなつながりを感じてもらいたいと思いがあって運営しています。親以外の大人が子どもと関わったり、親同士が頼り合える関係になっています。子どもたちには、安心できる地域社会のどまん中で育ってほしいのです。
私は他人の子も平気で叱ります。子どもに気を使って叱れない関係では、その親ともある一線までしか関係を深められない。言うべきことは言う、でも言う場はわきまえる。大人ですから。そこにはいつも信頼と尊敬をしっかり心に置いて人と関わっています。
2025年にスタートした野菜クラブは、地域の大人が子どもたちの野菜作りをサポートするプログラムです。今の社会は近所付き合いが減って、地域の大人と子どもたちの距離は遠くなっています。だからこそ、子どもたちと関係を築いて経験を与える場所が必要です。野菜クラブを主催している方々は人格者ばかりなので、私も学ばせてもらっています。
生まれた時の住所がないから、自分は何にもとらわれないのかも
理想とする地域と子どもたちの関係性が見えてきます。近所づきあいは負担が大きくて不要だという意見をよく耳にしますが、むしろ狙ってそういう場をつくろうとしている。こうした考え方やスタンスは幼少期から養われたのでしょうか。
私は生まれた時の住所がないんですよ。父は国内のリゾートを渡り歩く料理人、母は看護師、兄と弟という家族構成。私を出産した時、ちょうど両親は沖縄の小浜島に移住する前で、祖父母の家に同居していたようです。母に尋ねると当時の記憶はあるけど、生まれた時の住所記録がない(笑)
そのことが自分らしさにつながってる気がします。一つの場所にとらわれず、どこへ行ってもやっていけるという確信が自分の中にあるのです。

両親には「自分の足で立つ」ためにたくましく育てられました。新聞記事に対して「どう思う?」とよく聞かれましたし、小学生の夏休みには子供だけで小浜島に行き知人の家でひと月過ごしていました。寂しいこともあったけど楽しくて、何事も自分で考えて行動する力がつきましたね。
チャンスを生む可能性があるなら一手間を惜しみたくない。人と地域材をつなげる「Laut.」
まさに、何かに囚われることなく、迷いなく、自分が決めたことをやる、やると決めたら動くという印象です。
八木さんには子ども食堂などの他に、本業があるんですよね。
「Laut(ラウト).」という木材流通に関する事業を行っています。
20歳で建設会社に入り、不動産管理や設計事務の仕事を経験した後、築いた人脈を生かしながら働けるということで製材会社に再就職して林業業界と出会いました。いろんな現場での経験がとても面白くて。一方で、木材流通の現状を知り、課題にも直面しました。

消費行動のきっかけには「人」と「ストーリー」が重要と言われています。「この人が作っているから」「スト―リーのある商品だから」という理由で商品が手に取られる。でも木材業界は逆です。価格で比較されて外国産材が選ばれ、ブランド力や広告力で大手工務店が選ばれるのが現状です。私は、このまちの人が家を建てる時には、地域にいる職人さんや大工さん、そして地域材を選択肢に入れてもらいたい。まだ知識のない人には、その価値を伝える一手間を惜しみたくありません。
そんな役割を担いたいと思い、独立して立ち上げたのが「Laut.」です。
森には、足を踏み入れるとそれまでと違う感覚になるスイッチがあります。取り組んでいるのは木材流通の啓発やサポートですが、いろんな人に森と出会って心を和らげるきっかけを提供したいです。現在は保育園で木育の授業をしたり、子どもたちが木に触れるワークショップを開催したりと、子どもたち向けの活動をしています。これからは企業のオリジナル木製品を受注製作するなど、プラスチックに代わる選択肢として木材を提供していきたいです。


この先も様々な挑戦と実践をしていくかと思いますが、目指すのはどんなところでしょうか。
これから先どういう未来に自分がいるかはわからないけれど、各場面でブレない選択をしていくんだろうと、ごく自然に信じています。「忙しくてできない」は理由にならないし、「やらなければわからない」という気持ちを常に持って、向き合い続けていきます。
取材・文:高橋 咲月(コンセプト株式会社)
もうひとつの横顔
『快活人』
八木 さゆりさん
取材の一環で実際に子ども食堂の開催日にお邪魔しました。
集まったスタッフの方々は小さな子連れも多く、お料理をする人と子どもたちを見守る人に分かれて手際よく準備が進んでいきます。
「活動を重ねる中で、想いに共感してくれる仲間が自然と残ってくれています。私が不調で使い物にならなくても、先回りしてフォローをしてくれる信頼できるメンバーです。」と八木さん。
そうしているうちに近隣の高校生も手伝いにきてますます賑やかに。「だれでもごはん」は彼女の目指す形に着実に近づいています。