誰かの我慢に頼らない
過去と他人は変えられないけれど、未来の自分は変えられる
work ethic #009
株式会社コプレック 代表取締役社長
小林 永典
Kobayashi Hisanori
掛川市で精密板金加工会社「コプレック」の代表を務める小林さん。
現在は一般社団法人「Factory Pride Association」の代表理事として、「工場を、誇ろう。」を合言葉に、全国の製造業や工場を巻き込んだ新たなムーブメントづくりにも取り組んでいます。
鋭いロジックと行動力で挑戦を仕掛ける姿からは、一見すると自信に満ちた経営者という印象を受けます。しかし、その原点にあるのは、意外にも“挫折”でした。
「自分は特別だ」と思っていた学生時代。社会に出ると、自分よりはるかに優秀な人たちとの出会いに打ちのめされます。それでも臆することなく飛び込み、恥をかきながら学び続けた日々。
家業を継ぐために掛川へ戻り、工場という現場に向き合うなかで見えてきたものとは何だったのでしょうか。
価値をつくる人は、見えない場所にいる

小林さんが掲げる「工場を、誇ろう。」という言葉には、どんな思いが込められているのでしょうか。
利益の出し方って、大きく2つあると思います。ひとつは、自分たちで価値を生み出して利益を出すこと。もうひとつは、コストを下げて利益を出すことです。
もちろん両方とも必要なのですが、僕は前者をより大事にしたい。
コストダウンだけで利益を出そうとすると、どこかで誰かの我慢に頼ることになる。
給料かもしれないし、働く環境かもしれないし、働き方かもしれない。
それはあまり長続きしない気がするのです。
同じ利益でも、質が違うということですか。
そうですね。これまでの社会は、利益を数字だけで評価してきた部分があったと思います。でも、本当に価値を生み出して利益を出している人と、我慢や削減によって利益を出している人は、本来まったく違う存在だと思うのです。
新しい価値を生み出す。お客さんに喜んでもらう。社会に必要なものをつくる。その結果として利益が生まれる。その方が尊いし、経営って本来そうあるべきじゃないかなと思うのですね。
僕はずっと、価値を生み出している人たちが“見えなくなっている”ことに違和感があったのです。
例えばAmazonって便利じゃないですか。でも実際に価値を届けているのは、運送会社だったり、物流の現場だったりするわけです。
工場も同じで、日本品質と呼ばれるものを支えているのは、現場で働いている人たちです。
社会はブランドやサービスの名前は覚えていても、その裏側で価値を生み出している人たちのことは、意外と見えていない。だから僕は、そこに光を当てたいと思っています。

工場は、もっとかっこよくなれるはず
東京で働いた後、家業を継ぐために掛川へ戻ってきて、何か見え方が変わったことはありましたか。
正直に言うと、帰ってくる前は「どうせ田舎だし、つまらないだろうな」と思っていたわけです。
でも、戻ってみたら、面白い人がたくさんいることに驚きました。全国で活躍している人もいるし、自分の好きなことを突き詰めている人もいる。掛川って不思議なまちだなと思いました。同時に“ホーム”があるっていいな、と実感もしました。
都市と地方、どちらが良い悪いという話ではなくて、その間を行き来できることに価値があるのかもしれないなと思ったのです。外で見てきたものを地元につなげたり、地元の面白さを外へ伝えたり。そんな役割が自然と増えていきました。
外に出たからこそ、地元の良さを理解できるのかもしれません。
地元の魅力も工場の価値も、これまで見過ごされてきたものに目を向けているように感じます。
日本という国は、かねてから“現場”と呼ばれる場所で働いている人たちを、少し軽く見てきた部分があるんじゃないかと感じていました。
工場だけでなく、建設会社もそうですし、トラックドライバーもそうです。もっと言えば、医療や介護の現場もそうかもしれません。でも本当は、その人たちが支えているのですよね。
僕は現場の職人ではありません。だからこそ、そこにある価値を「言葉」にして伝える役割があるのかなと思っています。
工場はもっとかっこよくなれるはずですし、現場で働く人たちはもっと称えられてよい。
それは工場だけの話じゃなくて、私たちの暮らしに確かな価値を生み出している現場全体へのメッセージなのです。


(取材・文:JUNKitamura/掛川市地域おこし協力隊)
もうひとつの横顔
『没頭家』
小林 永典さん
「何千時間やっても、おっさんだから全然うまくならなくてさ(笑)」
そう言って小林さんが見せた表情は、経営者というより少年そのもの。
趣味はPCゲーム。なかでも、あるシューティングゲームには3,000時間以上を費やしていると言います。
夜な夜な画面の向こうで理不尽な敗北を味わい、20代のプロゲーマーにお金を払ってオンラインコーチングを受けることも。
「年齢も立場も関係ないですよ、上達したければ、現実を受け入れて、優れた相手から学ぶしかないので。」
過去も他人も変えられない。だからこそ今日も、未来の自分を攻略し続けているのかもしれません。