「人」が営む店という自覚

生身の人間だからできる、記憶と心に残る商いの形

work ethic #007

遠州掛川 鎧屋 代表

重田 和義

Shigeta Kazuyoshi

#人で選ばれる店 #記憶に残る接客 #商の在り方 #商品への想い #職人の心

掛川城下、駅から掛川城まで続く通りに「遠州掛川 鎧屋」はあります。
城に最も近い店には迫力ある甲冑が並び、戦国や幕末にまつわるグッズが所せましと陳列されています。
この店の店主、重田さんが何よりも大切にしているのは、店を単なる「物の売り買いの場」として終わらせないという実直な想いです。

「人」が営む店として求められるものは、思い出やエピソードが生まれるきっかけを作ること

鎧屋は個性的な商品はもちろんですが、重田さんが一人ひとりのお客様とじっくりお話する姿が印象的です。

靴を脱いで店にあがると、戦国や武将好きにはたまらないグッズがズラリと並んでいる

極端な話、今の時代、物は外に出なくても買えますよね。ネットで注文すれば翌日には届く。では、わざわざ掛川まで足を運んでくださった方が、来店して何を持ち帰るのか。それは品物だけではないと思うのです。その場所で誰と出会い、どんな会話をしたかという「記憶」も、お客様にはとても重要なのではないか、と。

店員という存在は、単に商品を渡す以上の役割を担っているということでしょうか。

そうです。鎧屋があるのは駅から掛川城を結ぶ一本道の中。お城を目指して歩いてくる方々が必ず通るいわば掛川の顔です。だから、僕が交わす一言が、掛川に対する印象を決めるという重要な役割も担っています。「あそこの店員さんと話して楽しかったな」と思ってもらえたら、それはもう立派な観光資源ですよね。
最近増えている無人販売店が物資の供給場所であるとするのなら、僕たちに求められるのは「ものを売る」だけでなく「思い出やエピソードが生まれるきっかけを作る」こと。それがこの場所に店を構える「あるべき姿」だと思っています。

機能性が重視される場所で培った、「心を通わせる接客」という武器。
全国の仲間とつながる中で膨らんだ、モノに対する敬意

このお話を伺うだけでも強い思いが伝わります。重田さんは雛人形などを扱う人形職人の家のお生まれとか。商いの理念や哲学はどのように確立したのでしょう。

幼少期から職人の世界で育ちましたが、若き日の一時はガソリンスタンドのスタッフとして汗を流していました。
仕事をしていると、ガソリンの価格や洗車の技術は、正直どこも大差ない。じゃあ何で差がつくかといったら、「接客」だと気づきました。

意外にも、外での経験に気づきがあったのですね。

はい。現場で「接客」の大切さを確信したのが、僕の商売人としての原点ですね。
副所長になり、店全体の売り上げがミッションとなった時、一般的には来店者が少ない時間にはスタッフの配置数を減らしますが、僕は逆を選びました。スタッフはお金が必要で働きたいと思っているのだから働かせてあげたい。それならお客様に来てもらえる働きをすればいいと考えたのです。

例えば、ガソリン以外の売上を伸ばすために、お客様とのコミュニケーションをどう取るか。給油のわずかな時間に、いかにお客様の困りごとを引き出し、「この人なら任せられる」と思ってもらえるか。信頼の積み重ねが目に見えて数字を変えていく面白さを知りました。

僕たちが言葉の裏側にある気持ちを汲み取って動くと、お客様はリピーターになってくださるのです。ガソリンスタンドという機能性や効率が重視される場所だからこそ、実は「心を通わせる接客」が最大の武器になる。家業に戻ってからも胸に置きました。

取材の間、重田さんは常に「何を大切に考えているか」を語った

接客に対しての想いの背景が、若いころの経験からきているのだとよくわかりました。
その後人形職人の世界に戻られてからはどのように過ごされたのでしょうか。

家業に入ってからは人形の制作から販売まで全てを担い、その中で全国の仲間とつながりました。先輩に商いの本質や商品に対する責任感を叩き込んでもらったり、全国にいる同世代の人形屋の跡取りや職人たちとチームのように動いて、展示会や新商品を企画したり。泥臭く全国を駆け回った時期は、僕の人生の中で有意義な財産になっています。

そうした中で自分にとって大切なことがハッキリとしてきました。商品がもつ背景や願いを正しく伝え、その上でお客様に選択してもらいたいという想いが強くなったのです。例えばひな人形には随所に細かい設定、意味や謂れがあり、贈られる方からの願いが込められています。説明を飛ばして売りやすい商品をセールスするのはどうしても受け入れられなくなっていたのです。

自分が大切したい商いの形を店としてやろうと、行き着いたのが鎧屋です。販売している商品は職人時代に繋がった仲間のものや、それ以外も主に国産のものを仕入れて、一つ一つの商品を「制作された方の子どもたち」として嫁がせています。

店内でひときわ目を引く甲冑も職人仲間の作品

一昨年、職人として走り続けた父が他界し、実家の人形屋は廃業しました。父は自分にも周りにも厳しくて、生ぬるいことは許さなかった。緊張感のない関係の中で人は育たないという考えでした。
一方で仲間と認めた相手を大切にし、家族やお客様には心から優しい人でもありました。父の姿勢は今も僕の中で生きていますし、背中を追いかけています。

商いは、究極的には人間関係そのものです。この鎧屋という空間を通じて、訪れた方の人生が少しだけ豊かになったり、掛川という街を好きになってもらえたりする。そのお手伝いができることが、僕にとって最大の喜びです。
これからも、お城の下でたくさんの「つながり」をつくるという気持ちで、来訪された方をお迎えし続けようと思います。

取材・文:高橋 咲月(コンセプト株式会社)

もうひとつの横顔

『人間力』

重田 和義さん

取材の合間、店先に立つ重田さんの奥様に、「重田さんのオフの姿」について尋ねてみました。すると奥様はからの回答は「まるっきりこのままですよ。裏表なんて全然ないんです」とのこと。
仕事とプライベートを分けるタイプではなく、常に「重田さんという人間」がそのままの熱量で存在しているのだといいます。外で困っている人がいたら声をかけるほどだそう。
鎧屋に流れる心地よい空気感は、重田さん夫妻が共有する、この「裏表ない誠実さ」から生まれているのだと納得した一幕でした。

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