技能実習生の“母役”として。
常に心に置く「教えず、見守る姿勢」。
work ethic #002
㈱山本製作所 専務取締役
山本 美鈴
Yamamoto Misuzu
掛川市倉真地区は田んぼや畑が広がるのどかなエリア。1979年から続く「山本製作所」は自動車部品の製造業を営みます。15年以上にわたり外国人技能実習生を受け入れてきたこの会社で、代表のご主人と共に彼女たちを支えているのが専務の山本美鈴さんです。
実習生の話になると表情がやわらいで、その関係は共に働くパートナーでありながら、どこか「母親」に近いものがありました。
けんか、弔いの心、涙。青春の時期を日本で過ごす技能実習生との日々
山本さんはご結婚を機に倉真へ来られたそうですね。ご主人やご家族の働く山本製作所にはいつ入社されたのですか?
私は3人の娘がいて、入社は長女が保育園に入った1999年です。その後下の子の育休中には、二階の食堂に連れていって、従業員に見守られながら仕事をすることもありました。アットホームな環境だったので、いつも誰かがあやしてくれたり抱っこしてくれたり、孤立せずに人とつながれる環境で産後を過ごせたのはありがたいことでした。
その会社で今は技能実習生のサポートをされていますね。
山本さん:技能実習生の受け入れは、2010年からです。現在はインドネシアやベトナムからの技能実習生35名くらいが働いています。全員女性なので、私は彼女たちに生活面のルールを伝えたり、女性ならではの悩みに対応したりしています。
そういう意味では今も「お母さん」の役をやっているのかもしれませんね。
とはいえ、基本的には見守る姿勢でいます。自分自身で考えて行動する力をつけてほしいですから。

文化も言葉も違う中で、不安はありませんでしたか。
地域に受け入れてもらえるかは心配していました。でも不安をよそに、地域はすんなり受け入れてくれて逆に驚きました。倉真だからかもしれませんね。
この地域は人に対する壁がなくて、誰にでもフレンドリーな方が多いんです。
今では実習生が秋のお祭りに参加させてもらっています。屋台引き回しの中に彼女たちが綱を引く時間まで準備してくれていて、思い出を作らせてもらっています。
私としては、「日本に来てよかった」と感じてほしいんです。日本での経験を次のキャリアに活かしてほしいですし。
昔はお金を稼ぐ一心で切り詰めている実習生が多かったですが、今は日本での日々を楽しもうというマインドの子が多くて、良いことだと感じています。

印象的だった思い出はありますか?
たーくさんありますよ。受け入れ当初の子たちですが、差し入れのスイカを平等に切れなくて投げ合って大げんかしたことが後になってわかったり!今では笑い話ですけど、当時は慣れない生活で抱えている不安や不満を少しでも取り除こうと、時間をかけてコミュニケーションを取りました。
いつも野菜をくれていた地域の方が亡くなった時に、お通夜に参列したいと相談されたこともありました。感謝の気持ちが、そうした行動につながったのかなと思います。
…あとは、帰国前の食事会で「日本にいたい、帰りたくない」と泣いた子がいたんです…。3年も一緒にいるともう家族のような存在ですから、すごく切なかったですね。
正しい情報を確実に伝えることが、お互いの生活を安心なものにする
お話を伺っていて、彼女たちの素顔を垣間見たように感じます。一方で接点なないまちの人からすると、技能実習生というのは少し遠い存在ではないでしょうか。
その通りで、地域との接点をもつ仕組みづくりはこれからの課題だと思います。以前、ゴミの出し方について地域の方から注意を受けたことがありました。
改善は大変でしたが、今では私たちよりも細かく分別する子もいます。伝えれば、わかるんです。私たちの教え方が下手とか、そもそも教えてないとか、原因はそこなんですよね。だからこそ接点を持たずに印象だけで判断してしまうのは勿体ないと思います。
行政と民間とが上手く関わり合って出会ったりお互いを知る場を作っていけたらいいですよね。

山本さんは警察委員も務めていらっしゃいますよね。その経験は実習生との関わりにも影響していますか。
今会社での仕事の他に、警察署協議会の会長や裁判所の調停委員をやらせてもらっています。外の場で情報を得たら会社に持ち帰って落とし込むんです。
例えば、自転車の交通ルールが変われば、ルールを知らないことで被害者になることもありますし、逆に加害側になってしまうこともありますから。日本で暮らす以上、地域の一員としての決まりを理解していることは彼女たち自身の安心にもつながります。
技能実習生たちは労働力としてはもちろん、大切な出会いの存在です。雇用する立場として、彼女たちをフォローする役でこれからもあり続けたいです。

取材・文:高橋 咲月(コンセプト株式会社)
もうひとつの横顔
『釣り人』
山本 美鈴さん
技能実習生を支え、警察協議委員や調停委員など、地域の規範を守る代表のような立場も兼任する山本さん。彼女のリフレッシュ方法は、“フライフィッシング”。ご夫婦で始めた趣味で、電波の入らない上流でロッドを振って頭の中をリセットするのだそうです。
以前はうまくいかないことを悩み続けてしまうタイプだったのが、フライを通じて「自然の力には抗えない」ことを身をもって知るうちに、考え方も変わったと語る山本さん。釣れない時は釣れない。魚の気分次第、機嫌次第でこちらの都合では始まらないのだから。彼女が多くの技能実習生に対しておおらかに見守り支えるスタンスの背景には、フライフィッシングの存在があるのかもしれません。