10坪の本屋で生きていく

遠回りでも、その時間が必要だったと思える日がきっと

work ethic #008

走る本屋さん高久書店 代表

高木 久直

Takagi Hisanao

#積小為大 #ペイフォワード文庫 #高校生の居場所 #人が集う本屋

書店が減り続ける時代、なぜこの場所に人は集まるのか。
掛川城のそばにある、築100年の古民家を改装した小さな本屋「高久書店」。
放課後になると高校生たちが二階へ上がり、静かに参考書を広げる。
この場所を目指して、市外から掛川へやってくる人がいる。
30年にわたり、本と人に向き合い続ける店主の高木さんを訪ねました。

アナログとデジタル。両方の時代を経験している書店員

高木さんが書店員になられたのは今から30年近く前だそうですね。

はい。私がこの業界に入った1990年代後半は、全国に2万5,000軒以上の本屋があり、出版業界がまさに栄華を極めていた時代でした。まだスマートフォンも普及しておらず、パソコンがようやく導入され始めた頃。当時、先輩たちから厳しく叩き込まれた「書店員たるもの」みたいな経験は、今でも私の大きな強みになっています。
例えば、もし停電してネットが全部止まったとしても、本をどう仕入れるかを身体が覚えているのです。

だからといって、昔のやり方に固執したいわけではないのです。むしろ、アナログな紙の本を扱っているからこそ、デジタルはちゃんと使わなきゃいけないと思っていて。SNSを毎日更新すること(1日5投稿)を自分に課し、本に関する情報発信を続けています。ありがたいことに、今では静岡県内の書店では一番多くの方に見てもらえるアカウントになりました。

お店の本はどのようにセレクトされていますか?

一般的な書店だと、取次から自動的に本が送られてくる「見計らい配本」という仕組みを採用しているのですが、高久書店では行っていません。今この店に並んでいる本は、1ヶ月半くらい前に、私が全部選んで注文しています。
自分が置きたい本は、感覚的には1割くらい。店内約7000冊のうち残りの9割は、新刊案内を見ながら、通ってくれるお客さんの顔を思い浮かべて「私のための本がここにある」と思ってもらえるように一冊一冊選んでいます。
入り口の一番目立つ場所には、ここを通学路にしている高校生たちのために、参考書をたくさん置くようにしています。

商売としては成り立たなくても、寄り添いたい

高久書店の活動は、お店の経営だけにとどまらず、朝の配達や、大人から子どもたちへ本を贈る「ペイフォワード文庫」など、非常に多岐にわたっていますね。

本屋というと、本を売る場所だと思われるのですけど、僕はそれだけじゃないと思っています。
例えば、ペイフォワード文庫は「大人から子どもへの無償の贈り物」という形で続けてきました。提供してくださる方の善意で本を購入し、それを子どもたちが自由に持ち帰ることができる仕組みです。もう5年以上続いているのですが、その間には本当にいろいろな出来事がありました。
ある子は、「親に本を買ってもらったことがないから、自分の本棚に初めて本を並べることができた」と話してくれました。
また、亡くなったおじいさんが好きだった作家の本をペイフォワード文庫で見つけた高校生もいました。

最初は形見を見つけたような気持ちで手に取ったそうなのですが、後日「おじいちゃんがなぜこの作家を読んでいたのか分かった気がする」と言って、続編を自分で買いに来てくれたのです。
本を渡しているようで、本当は人の思いや記憶が受け渡されているのかもしれません。

嬉しかったのは、以前ペイフォワード文庫でもらう側だった子が、大学卒業を機に「今度は私が贈る側になりたい」と本を提供してくれたことです。
誰かから受け取った善意が、また次の誰かへ渡っていく。
僕はよく、「本屋版の子ども食堂みたいなものかな」と話すのです。
商売として考えたら効率のいい取り組みではないかもしれません。でも、可能な限り続けていきたいと思っています。

参考書コーナーの上には、高久書店で参考書を買った受験生からの直筆の合格報告が並ぶ

書店員30年を経て、高木さんがこれからチャレンジしたいことはありますか?

実は、高久書店の先に、もう一つやってみたいことがあるのです。
今、移動販売の「走る本屋」として大須賀や大東方面へ行くことがあるのですが、地域の方と話していると、「近くに本屋がない」という声をよく耳にします。高校生たちは参考書を買うために掛川駅前まで出てこなければならないし、高齢になって車を手放した方の中には、本を買いに行きたくても行けない人もいます。

本を届けに行くと「待ってたよ!」と声をかけてくださる方がいる。そんな時、本屋の役割は本を売ることだけではないのだと感じます。
「大須賀にも高久書店みたいな本屋があったらいいのに」と学生に言われたことも。その言葉が今でもずっと心に残っているのです。

もちろん、今すぐできることではありませんが、「書店を失った地域に、小さくてもいいから本屋をつくりたい」と考えています。
空き家を活用したり、地域の人たちと一緒に運営したり。本をきっかけに人が集まり、言葉を交わせる場所ならつくれるかもしれない。高久書店を続けてきた経験を活かして、いつか挑戦できたらいいなと思っています。

(取材・文:JUNKitamura/掛川市地域おこし協力隊)

もうひとつの横顔

『PTA』

高木 久直さん

この春まで学校のPTA会長を務めていた高木さん。
他にも静岡書店大賞の事務局や図書館協議委員など、地域のさまざまな役割を担ってきました。「役員をやりたい人なんて、なかなかいないですよね。大変だから」と笑います。
それでも、声を掛けてくれるのは“この人なら”と思ってくれたから。
頼まれごとは、信頼の証。誰かがやらなくてならないことで、どうせ引き受けるなら嫌々ではなく、地域の大人として自分も楽しみながらやりたい。その前向きな姿勢と柔らかな人柄は、本屋の外でも変わりません。

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